トップチェスプレイヤーである、小島慎也さんの記事まとめ

小島慎也さんの記事まとめ

ここでは、トップチェスプレイヤーの一人でもある、小島慎也さんのブログから

厳選された記事を紹介します。

小島さんのブログの引用文になります。

2011年のまとめ

・2011年の
試合数: 71 (白: 37、黒: 34)
戦績: 54勝6敗11ドロー
勝率: 83.8%
・CHESS LESSONS
チェスのオープニングというものは、莫大な数があり、膨大な研究が残されています。その中から自分に合って物を選び、使いこなしていくということは簡単ではありません。そもそも自分に”合う”ということがどういったことなのか、その判断も悩むところです。
チェスを覚えたばかりの頃は、「周りが指していたから」「人に勧められたから」「たまたま本で見かけたから」といった理由で、なんらかのオープニングを使い始めるでしょう。
もちろん最初はそれでOKです。それからだんだんとチェスに慣れてきて、周りの試合を見て様々なオープニングがあることを知ったり、GMのゲームを見て興味を持ったり、ソフトや本でより細かい情報を仕入れられるようになったりすると、オープニング研究の世界はぐっと幅が広がります。今日は(も?)ややマニアックな話ですが、私がどのようにオープニングを調べ、選択するかという話をしようと思います。
1. 何かのきっかけで、なんらかのオープニングに興味を持つ。
きっかけというものなんでも良いのです。黒でもっと勝ちに行くレパートリーが欲しい、と思ったり、先程書いたようなGMの試合で、なんだこれは、強そうだ!と思ったり、本当に何でもOKです。私は最近、2年ぶりにFrench Defence を調べ直していますが、きっかけはたまたま人に教える機会が続き、自分でも指してみたい気分になったからです。
2. Mega database で試合を探す。
ここから少しマニアックになるかもしれません。私は興味を持ったオープニングが出てきたときは、熱が冷めないうちに早めに試合をチェックします。
自分の場合はChessbase というソフトでMega Database を起動して試合を探しますが、最近は棋譜の検索サイトも様々なものが出ているので、そちらを参考にしても良いでしょう。ちなみにこのとき、自分がチェックする項目がいくつかあります。
a) 近年指されているか、そして試合内容はどうか
b) 全体と近年の勝率
c) どんなGM が指しているか(特定のポジションで、自分が持ちたい側のレイティングをソート)
d) そのオープニングを得意としているGM は誰か。(特定のポジションで、自分が持ちたい側の名前をソート)
e) 気にいった勝ち(自分が持ちたい側で)の試合があるか。
f) 基本的なStrategy を理解できるか、そして気に入るか。
いくつか補足をしておくと、勝率を見るときは勝ち試合、負け試合、ドロー試合のバランスもチェックします。
つまり、100試合で白の勝率50%のラインがあった場合、白勝ち40試合、黒勝ち40試合、ドロー20試合なのか、はたまた100試合全部ドローなのか(そういうことはありえませんが・・・)で、ラインの特徴は全く違います。
また、勝率というのは母体となる試合数が多くなければ、信用の度合いは低下します。高い数字だけを見て、跳びつかないよう気を付ける必要があります。
そして難しいのは最後のf)の項目です。誰しも好きな形があり、それに持ち込みたいものです。しかし、同じ形ばかりを求めて指していると戦略の幅が広がりませんし、嫌いなものを避けているだけでは、苦手を克服することができません。
そのため、食わず嫌いをせずに色々な形を試してみて、結果どうしても嫌だと感じるならば、なるべくそれを避けるようにオープニングを用意すれば良いと思います。実を言えば、私にもなるべく避けたい形というものはあり(どんな形かは秘密です)、それをどうするか苦労してきた経験があります。その経験と、苦手に対する工夫の積み重ねが、私を育ててきたようにも感じます。
・チェスというのは不思議なもので、駒をなるべく取られないように取られないようにと考える一方で、チェックメイトにするためならば、どれだけ駒を捨てても構いません。しかし、有効ではないアタックに駒を投入しすぎたり、駒を捨てすぎたりすれば、ディフェンスされた際に大きな不利に陥ります。重要なのはアタックが有効であるか、相手のディフェンスの手段は十分にあるか、それを見極めることです。
・現在、FIDEのレイティングが2700を超えているプレーヤーは、世界中に42名います。皆さんはその中で、誰が一番好きでしょうか。Kramnik? Carlsen? Topalov? Gelfand と答える人は、かなり渋いですね。
私が今日ご紹介するのは、ハンガリーのトップGMである、Zoltan Almasi というプレーヤーです。彼は現在、FIDEレイティング2726で、世界ランキングは19位です。しかし、これほどの実力がありながら、日本でのAlmasi の知名度はかなり低いと言えるでしょう。果たしてはそれはなぜでしょうか。
その理由は二つあると私は考えています。一つはハンガリーには、Leko,Polgar という2大GMの存在があるためです。Peter Leko は10代前半でGMとなり、2700に到達してからは、世界のトップGMとしのぎを削ってきました。2004年には、当時世界チャンピオンであったKramnik への挑戦権を得て14回戦のマッチに挑みましたが、最終戦で惜しくも敗れ、チャンピオン交代とはなりませんでした。
一方でJudit Polgar と言えば、歴史上最もチェスの強い女性だと断言して良いでしょう。現在は中国のHou Yifan, インドのHumpy Koneru が女性プレーヤーとして2600を超えましたが、他に2600の女性がいなかった時代に、一人2700を超えていたPolgar は、完全に別次元の強さだったと言えます。結婚と出産を経てカムバックした彼女は、もう少しで2700にレイティングを戻すでしょう。地元のハンガリーではLeko 以上の人気を誇るアイドルのような存在です。
この二人の影に隠れていたことに加え、Almasi の知名度が低いもう一つの要因は、彼がトップGMの世界では遅咲きであったことです。現在の2700台42人のうちの多くは、10代か20代で2700に到達しています。さらに言えば、Carlsen やGiri のように今現在、20歳前で活躍するプレーヤーは話題になりやすく、私たちも名前をよく耳にします。それに対し、Almasi は昨年、30代で初めて2700に到達しました。彼は19歳で2600を超えましたが、そこからレイティングを100上げるのに15年かかっているのです!
私がいつAlmasi のことを知ったのかは定かではないですが、ハンガリーのチェスに興味を持った中学3年生頃だった気がします。以来、ずっと彼の試合を追ってきたわけではありませんが、Ruy Lopez の力強い試合などはいくつも目にしてきました。彼の正統派1.e4 スタイルと、長く努力を続けてきた姿勢は、是非私たちが見習うべきでしょう。私は今後のAlmasi の活躍に大いに期待しているので、日本でも彼のことを応援してくれる人が増えれば、私としては嬉しい限りです。
・日本のチェス界ではレイティング2000を超えることが、強豪への仲間入りの証しだと私は考えています。アクティブなプレーヤーで2000を超えている人は意外と少なく、最新レイティングS77でのランキング(4月後半から6月後半に公式戦をこなしたJCA会員によるもの)では19人です。そして大学や高校の先輩後輩だったり、近い年代でなければ、プレーヤーの生まれ年というものはあまりチェックしないかもしれませんが、このうち4人は1988年生まれ、すなわち私と同じ代です。小島(2340)、南條(2331)、山田(2190)、桑田(2127)というメンバーを抱える1988年は、現在の日本チェス界では異質な年であると言えるかもしれません。

2012年まとめ

・気付くと、もう2012年も最終日です。他のチェスブログでも、ぽつぽつと今年を振り返った記事が出ているので、私も今日はそうしようと思います。今年は私にとってこの10年で、最もJCA 公式戦が少なく、最もFIDE 公式戦の多い年となりました。ハンガリーに半年以上滞在して試合ばかりしているので、当然と言えば当然ですね。FIDE 公式戦を月に20試合ずつこなすというのは、ハードですが非常に充実した日々です。
JCA 公式戦 25勝2敗5ドロー(勝率86%)
FIDE 公式戦 59勝36敗60ドロー(勝率57%)
試合数は少ないですが、国内は初めて勝率が85% を超えました。これは年の頭に兵庫、静岡を巡って地方遠征をしたことが影響しています。年間100試合弱をこなして、この勝率を保てれば素晴らしいですね。3月の百傑の最終戦で、羽生さんと優勝を争ったのも良い思い出です。
そしてFIDE 公式戦は150試合を超えましたか… 自分でも驚きです。そして勝ちよりドローが多い(笑)全日本では2264 だったレイティングが、2340 まで上がったのも、これだけ試合をこなしているおかげですね。あと数時間もすれば、レイティングが更新されて、さらに上がった数字が発表されるでしょう。
2012年は私にとって、激動の一年でした。一月からは、ハンガリーへの留学を決めて、国内での仕事を全てまとめつつ、Check Mate Lounge の準備を進めてきました。全日本後にこちらに来てからは、ひたらすら試合の日々でしたが、それと同時にアンダンテで多くの人と出会い、自分自身が変化してきたことを自覚しています。
オリンピアードではふがいない戦績でしたが、その悔しさをばねに、10月12月にはIM ノームを獲得することができました。レイティングも2400間近で、あと一歩で日本人初のIM に手が届きます。去年、ラスベガスでビッグシックスをしていた時には、こうした一年はまるで想像できていなかったでしょう(笑)
・私がロンドンの8R でやらかした直後に、日本のチェス仲間らが3回同一局面のルールについて調べてくれました。FIDE のハンドブックによれば、3回同一局面が現れた場合、手を指さずに棋譜に手を書き、アービターにアピールするのが、正しいドロー申請の手法のようです。間違って手を指してしまうと着手となり、ドロー申請の機会を失うことになります。また、普通は手を指す前に棋譜を書くことは禁じられていますが、3回同一局面と50手ルールの場合のみ、特例だそうです。
・今回のノーム獲得まで、ずいぶんと長い時間がかかりました。私がFM になったのは、2009年、大学3年の春です。その時は、これからも順調にレイティングが伸び、単発の海外大会参加を繰り返すうちに、どこかでIM ノームも取れるだろうと楽観視していました。その年のOB会では、大学在学中にIM も取りたいと大言壮語をはいたことをよく覚えています。
しかし、現実は私にとって厳しく、レイティングは伸びないどころか、昨年の夏には2300 を割る始末です。このままではダメだと思い、ブダペストに長期滞在してノームチャレンジをすると決めたのは、昨年末の事でした。ハンガリーは私の憧れであった、Leko、Polgar、Almasi らが育った国であり、そこで自分もプロへの道を切り開ければと考えたのです。
こちらに来た当初は、予定していた5月~8月のトーナメントでも、一つぐらいはノームを取れるだろうと考えていました。ところが、そうならなかったことは、皆さんもご存じの通りです。中国のXu Yi、ハンガリーのFeher Adam といった私より若いプレーヤーが、同じトーナメント内でIM ノームを獲得するのを横目に見ながら、悔しい思いを何度となく繰り返してきました。南條くんがイスタンブールオリンピアードで、ノーム達成まであと一歩に迫ったことも、私にとっては衝撃的な出来事でした。
9月に一時的に日本に帰国しましたが、諦めずにこのブダペストに戻ってきたのは、日本で応援してくれている皆さんと、こちらの生活をサポートしてくれたアンダンテの皆さんに、このままでは顔向けできないと思ったからです。そういった気持ちがうまくプレーに作用したのか、戻ってきた直後のFirst Saturday で、いきなりノームを獲得できたことは、私にとって大きな喜びです。この場を借りて、私を支えて下さった皆さんに、心からお礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました!
・2012年のインタビュー記事
◆不完全さを楽しむ。それがチェス。
世界新聞社(以下、世):
まず、ハンガリーまで試合に来ている目的は?
チェス日本代表・FIDE Master 小島慎也さん(以下、小島):
日本では獲ることのできないInternational Master タイトルの獲得ですね。そのためには9月までにハンガリーで行われる国際大会7回(※総当たり、1回目の参加者は11名)のうち、3回で一定の成績(※1回目の規定ポイントは10試合で7.5ポイント。勝ちは1、引き分けは0.5で換算。規定ポイントは大会ごとに変わる)を収めなければなりません。
世:
武者修行という認識でいいのでしょうか?
小島:
そうですね。タイトルの獲得とともに自身のレベルアップという目的はもちろんあります。やはり強い相手とたくさん試合ができるというのは、上達には欠かせない環境です。
世:
日本人初のタイトルを狙うということで国を背負っているという感覚は?
小島:
あります。国に何人タイトル保持者がいるかということはその国の競技力を表す指標になりますから。
世:
魅力を含めて、チェスとは?
小島:
チェスの世界ではコンピューターによる解析が盛んなのですが、僕らはコンピューターになることを目指している訳じゃない。人間だから感情も入るし、ミスもします。そして往々にしてそういった要素が勝敗を分けるんです。完璧を目指しながらも、不完全さを楽しむ。それがチェスなんじゃないでしょうか。
◆目の前の試合に勝てても、その次の試合に勝てるかどうかは分からない
世:
実際に試合の話を聞いていきますが、試合の前の準備というのはどのようなことをするんですか?
小島:
たくさん強者の試合を見ます(チェスの主要な試合の対局はネットで見ることができる)。対戦相手に対して過去に強者がどんな試合をしたのかということを必ず調べます。それを参考にしながら、自分だったら、ということを考えます。
世:
準備は徹底的にやるほうですか?
小島:
いえ、準備はあくまで試合を有利に進めるためのもの。理想は自力をつけて、試合中に臨機応変に対応できるようになること。勝負の先に成長を見据えるのであれば、準備はかっちりやることが重要ではありません。
世:
ただ、今回、タイトルの獲得という現実目標がある訳ですよね。それと成長を両立させることは難しさもあるのでは。
小島:
目の前の試合に勝てても、その次の試合に勝てるかどうかは分からない。という風に考えています。9月までに7回大会があるんですが、1試合ごとにどんどん強くなって、結果タイトルがついてくるというイメージでいます。
◆序盤は本のように、中盤は奇術師のように、終盤は機械のように
世:
チェスには「序盤は本のように、中盤は奇術師のように、終盤は機械のように指す」というセオリーがあると聞きました。
小島:
まず序盤はですね、20手ぐらいまでのいわゆるオープニングですね。相手の駒がまだ作用してこない展開という言い方もできます。どういう風に試合を進めていくのか。もっと言えばどういう陣系を組むのか。事前に考えていた陣系をあまり考えずに指していきます。
世:
本というのはそういう意味なんですね。ここで大切なことは?
小島:
基本を忠実に守ることですね。どの陣系を選んだとしても、そこにはセオリーというものがあって、その有効性はこれまでに研究し尽くされています。時には歴史に敬意を払うことが必要です。ここでは突飛なことはせずに、セオリー通り丁寧に指していきます。そういった意味で、3つの段階で一番知識が求められますね。
世:
序盤で小島さんが得意としている陣形というものはあるんですか?
小島:
ありますね。しかし、得意なものを選ぶということは苦手なものを(苦手なまま)残すということでもあるのです。チェスには相手がいるので、得意な陣系にさせてもらえないこともある。チェスにおいては得意なものを極めるというより、苦手なものを無くすという価値観の方が重視されます。
世:
そして中盤。
小島:
ここからは自分と相手の駒が直接的に作用していきます。仕掛け合いですね。予想できないこと、わからないことが多くなっていきます。
世:
アドリブが求められるということですか?
小島:
そうです。でも、だからこそ、自分が指した手、相手が指した手の意味を考えないといけない。何故、自分は今、この手を指すのか。そしてその狙いは正しい狙いなのか。手の意味が繋がって思いがけないことが起こるというのが「奇術師」の所以です。
世:
終盤はどのような状況ですか?
小島:
お互い駒が少なくなって、チェックメイトを狙いにいく段階です。「この手じゃないと勝てない」というシーンが出てくるので一番ミスが許されないと言えます。
世:
チェスには引き分けがあるそうですね。
小島:
いくつかパターンがあるのですが、例えば、お互いミスなくいけば引き分けになるということが分かった時点で「引き分けにしよう」とどちらかが申し出て合意すれば引き分けになります。終盤の優勢の度合いにもよりますが、終盤にミスを犯して勝ちが引き分けになるということがチェスでは頻繁に起こります。「機械」のように正確に指して、勝ちを確実に掴むというのが終盤ですね。
◆状況が良くても、悪くても冷静に
世:
メンタル面についてお聞きしたいのですが、試合中どんな精神状態で指しているのですか?
小島:
状況が良くても、悪くても冷静でいるように心がけています。例えば、優勢で「いける!」とがっついたり、逆にミスを引きずったり。そういうのはミスを引き起こします。余計なことは試合の後考えればいいんです。優勢な時でも常に良い手を見つけるよう努め、逆に劣勢でも丁寧に抵抗する。
世:
相手にとってすごく嫌なプレーヤーですね。
小島:
そうかもしれないですね(笑)。相手といえば、駒を頭の中で入れ替えることもありますよ。
世:
入れ替える?
小島:
立場を逆転させるんです。もし今、相手の状況になったとして、自分だったらどう指すだろうと考えます。そうやって、相手にとって一番嫌なことを考えたりするのです。
世:
では最後に今後の目標を聞かせてください。
小島:
短期的にはInternational Master を獲ること。長期的には日本でもっとチェスを普及させたいです。チェスは日本ではプレイする人もまだまだ少なくて、インテリアの一部というようなイメージがあると思うんです。でも、もっと気軽にできて、こんなに楽しいものだということを知ってほしいです。

2013年のまとめ

・いよいよ2013年も最終日ということで、毎年恒例、1年の振り返りを行います。今年は昨年に引き続き、1年の約半分を海外で過ごしていました。Behind the Scene にも書かれた通り、1番印象的だったのは3つ目のノームを獲得できたこと。日本人初のIM-Elect として、今後もしっかりとプレーを続けていこうと思います。
2013年国内公式戦戦績
32勝3敗9ドロー、勝率83%
JCA レイティング変動 2395 → 2415
2013年海外公式戦戦績
59勝27敗46ドロー、勝率62%
FIDE レイティング変動 2340 → 2361
今年の国内戦績は勝率85%を切ってしまいましたね。逆に海外大会での勝率は上がっていますが、これはチェコの10勝が大きいでしょう。全体を通して、まずまずといった具合です。ベストゲームを選ぶのは難しいですが、チェコでの宿敵、カザフスタンのAbdulmalik にリベンジした試合でしょうかね。
ノームの有効性が確定するまでの4週間は、私にとって大変長い時間でした。これで私の立場は、日本のチェスプレーヤーとして初めての、IM Elect (正式な言葉ではないかもしれませんが、ノームを全て達成しながら、レイティングが基準に到達していないプレーヤーをこう呼ぶはずです。) となります。
日本では絶対に獲得できないIM ノーム獲得を目指して、初めてハンガリー遠征に来たのが昨年の5月。それから1年半、19回のノームトーナメントを経て、3つのノームを獲得したことになります。(こうして書くと、あっさりとノームを獲得して帰国していく中国の若者たちが憎たらしく思えてきますw) もう今後は、ノームトーナメントにこだわる必要はありません。すでに参加を決めているチェコの大会以降、来月からの予定は未定ですが、これからはレイティング2400到達を一番の目標に掲げてプレーしていくことになるでしょう。これまで応援してくださった皆さんに感謝するとともに、正式なIM タイトル獲得まで、もうしばらくお待ちいただければと思います。
・実を言えば、CAISSA のオーガナイザー、Tamas からは、11月のCAISSA に宿泊費、エントリーフィーを含めて、計190ユーロのスペシャルプライズでの参加を持ちかけられていました。このTamas の心遣いには大変感謝しています。しかし、これを蹴ってまでチェコに行くことを望む理由がいくつかあります。
(1) なるべく多くの試合をこなしたい
試合をすれば必ずしもレイティングが上がるわけではないですが、ケチケメートでのいつもの9試合よりも、チェコの2都市で16試合のほうがチャンスはあるでしょう。2400 を目指す私としては、なるべく稼げるところで稼ぎたいという気持ちがあります。
(2) これまでと同じクローズドトーナメントだけでなく、オープントーナメントも経験してみたい
これは前々から言っていたことですが、ハンガリー国内でのノームトーナメント参加を繰り返すよりも、せっかくヨーロッパにいるからには、周辺の国のオープントーナメントにも参加してみたいです。そのほうが、より多くのプレーヤーと知り合ったり、トーナメントの形式を経験できるでしょう。ノビサドはセミクローズドだったので、次のイタリアに引き続き、チェコの2大会が次なるターゲットというわけです。
(3) 参加費が安い
オープントーナメントは、参加者を事前に確定させなければいけないクローズドトーナメントに比べ、一般的に参加費がぐっと安くなります。Tamas から提示されたディスカウントはありがたいのですが、参加費、宿泊費、移動費を合わせても、チェコのほうがかなり安くなりそうです。Brno Open では、2300台は参加費が17ユーロで、FM 特典でさらに25% オフとなります。そして、主催者側の用意したホステルは、1泊8ユーロと記されています。(アンダンテより安いとは…)
海外のオープントーナメントでは、入賞者に賞金が出るのは当たり前のことです。(そうでなければ、マスターが集まりません。) 今回のBrno Open では優勝で4万円、Pilsen Open では3万5000円と、さほど高額ではありませんが、ゲットできれば全ての費用を賄ってお釣りがくる程度の賞金が出ます。ちなみに賞金の出る大会を希望するのは、私ががめついからではなく(笑)、そういった大会での入賞経験が、今後私がチェスの仕事をしていく中で良い経験になると考えたためです。もちろん、勝てるかどうかは行ってみなければわかりませんし、余計なことを考えて負けてしまっては、捕らぬ狸の皮算用となってしまいます。プレー中はあまり賞金のことを気にしないように努めたいと思います。
ちなみにチェコはこれまでに行ったことがなく、対戦したことのあるチェコのマスターも、9月のFS で対戦したIM Pribyl のみです。そういったことも、チェコに惹かれる理由になっていることは間違いありません。10月に確定したノームが有効かどうかは、おそらくインドのチェンナイで11/10 までに決まると予想していますので、アグリジェント後はノームを気にせず、レイティングを上げることだけに集中してプレーできればと思います!
IM について
・ FIDE が定めるチェスプレーヤーのタイトルで、International Master の略
・ 取得条件1つ目は、Live Rating を2400 に乗せること(自分は現在2356で、あと44上げる必要あり)
・ 取得条件2つ目は、IM ノームを3つ獲得すること
(厳密には違いますが、細かく説明すると難しいので、ここでは分かりやすくこう書いておきます)
・ 日本人でのIM タイトル取得者は、まだ誰もいない
IM ノームについて
・ 獲得条件は、一定数以上の国籍のプレーヤー、およびIM (もしくはGM)と試合をし、2450 を超えるパフォーマンスを記録すること
・ これまで日本人では、私と池田惇多くんが2つ、羽生さんが1つ獲得している
レイティングだけならば、日本でプレーしていても2400 に到達する可能性はありますが、IM ノームを獲得するためには、IM のいる国に行かなければなりません。昨年から今年の頭にかけて9か月を過ごし、2つのノームを獲得したハンガリーは、もはや私のもう1つのホームグラウンドと呼んで差支えないでしょう。向こうにいる友人たちとの再会も楽しみにしています。
いつも日本の大会を追っているFM が、現在はアメリカの大会で四苦八苦しているため、明日からのJapan League のプレビューは代わりに私が書こうと思います。今年のJapan League は5人のFM クラスのマスターが揃い、海外勢が来なかった年としては、過去最高レベルの戦いになることが予想されます。
小島慎也 (FM, JPN, 2356)
自分で自分の評価を書くというのは難しいものです(笑) とりあえず、FIDE もJCA もレイティングリストがトップであるため、あまり情けない姿をさらすわけにはいきません。Japan League は2010年に単独優勝、2011年に同時優勝を果たしている相性の良い大会であるため、今年も他のライバルを抑えて優勝を狙いたいと思います。
池田惇多 (FM, AUS, 2339)
今年の日本チャンピオン、池田くんは言うまでもなく、今大会も優勝候補の大本命です。新潟での大学生との合宿は全勝で乗り切り、昨日からは私の家に泊まってトレーニングをしています。全日本に次いで日本のFIDE 公式戦大会を制するか、周囲からの注目度合いも高いでしょう。
南條遼介 (CM, JPN, 2300)
7月に韓国、ロシアと連続FIDE 公式戦を戦った南條くんも、調子は悪くなさそうです。全日本で不調だった分、3ヶ月ぶりの南條復活を日本国内でアピールできるでしょうか。カザンの最終戦で見せた力をトーナメント中に発揮できれば、私や惇多くんに一歩も退かず、激しい優勝争いになると予想します。
渡辺暁 (FM, JPN, 2265)
昨年のJapan League チャンピオン、暁さんは今年も当然参戦です。昨年のこの大会、私はハンガリーから見守るだけでしたが、南條くんを破っての優勝は見事でした。全日本ではBye を入れていましたが、こちらはフルでの参加になりそうなので、優勝争いにも絡んでくるでしょう。全日本では機会のなかった渡辺 – 池田戦も、ペアリングが組まれれば楽しみにしたいと思います。
Simon Bibby (FM, JPN, 2262)
2002年の日本チャンピオンが、数年ぶりの東京でのFIDE 公式戦に登場です。昨年(かな?)、過去のレイティングでFM を申請し、日本籍の新たなマスターとなりました。今年からは本格的な復帰を望んでいると聞いているので、私も2007年以来の対戦を心待ちにしています。
・なぜ、ハンガリーでこうしたトーナメントがコンスタントに成立するかと言えば、地元のマスターや隣国のマスターが集まりやすいこともあるでしょうが、なにより、オーガナイザーのLaszlo さんが細かな気配りができ、そして信頼できる人間だからだと確信しています。ちょっとしたことですが、彼はどんな参加者とも、会場でよく話をします。内容は戦績のことや、生活のことなど様々ですが、参加者がブダペスト滞在中、問題なくチェスをプレーできるか、何か不満はないかを常にチェックしています。さらに面白いのは、各国の挨拶を覚えようとすることです。私には「コンニチハ! オゲンキデスカ?」 と聞いてきますし、インド人には「ナマステ!」と挨拶しています。こんなことは誰でもでき、大したことではないと思うかもしれませんが、ちょっとした労力をかけて顧客の満足度を上げるということは、どんな世界でも必要なことではないかと思います。
他にも、プレーヤー以外の会場見学を積極的に受け入れ、アンダンテでできた私の友達とも交流を積極的に持ちますし、私がハンガリーを離れた後も、最近どうしてるか? と細かく連絡をくれます。連絡をくれるのはビジネスのためかもしれませんが、数ヶ月たっても自分のことを気にしてくれるというのは嬉しいことですし、彼がそういった人物でなければ、次回はハンガリーではなく、別のトーナメントに参加しようと考えるプレーヤーも、間違いなくいるでしょう。まとめるならば、Laszlo さんは、なかなかに愉快な人物で、その彼の人徳が、FS を支える柱になっているということです。「ガールフレンドはできたか?」と、しつこく聞いてこなくなれば、まさにパーフェクトでしょう!(笑)
そんな彼でも、First Saturday の企画設立当初は、かなりの苦労があったと予想します。現在では、ヨーロッパのGM, IM トーナメントと言えば、ハンガリーのFirst Saturday だというのが、世界のチェス界でも常識になっていますが、最初からそうだったはずがありません。どうやって国内のマスターに協力してもらうか、どうやって海外からプレーヤーを集めるか、どうやって大会を告知するか、そういったことを試行錯誤してきた結果、現在のFS があるのでしょう。過去に彼が行ってきた努力を予想し、現在の彼と大会の様子を見るたび、月並みな表現ですが、すごい人だなと思うのです。
私は1ヵ月半後にはハンガリーに戻り、彼と半年ぶりの再会を果たします。チェスの世界で生きる先輩としての、彼の活動は今後もチェックしていきたいと思いますし、次のハンガリー滞在中は、これまでしてこなかった話を、彼としてみたいと思っています。私もこれから、盤上のチェスの技術だけではなく、もっともっと多くのことを学んでいかなければいけませんね。

2014年のまとめ

・ここまで挙げた7大会に加え、松戸チェスクラブ、日吉の例会、そしてサタデートーナメントを含めた試合が、今年の国内公式戦の全てとなります。それらの結果を集計してみると、以下のようになりました。
白: 24勝2敗
黒: 20勝2敗8ドロー
計: 44勝4敗8ドロー
勝率: 85.7%
白でドローがないというのは、珍しい結果ですね。チェスを始めて14年目にして、初めての出来事です。勝率は毎年、なかなか9割の壁を超えられませんが、それでも十分に高い数字でしょう。レイティングも今月末の更新で中部快速とジャパンオープンの結果を受け、2450を超えるのではないかと思います。
・まだピンと来ない人もいると思いますので、現在の私の考えを説明します。まず明言しておくべきことは、ドローオファーは形勢に差がある場合、「優勢の側がすべきもの」です。この数年で色々と考えてきましたが、理由を以下のようにまとめてみます。
・劣勢の側は、受けてほしいという願いを込めてドローオファーしている暇があれば、なんとか挽回する方法を考えるべきである。
・劣勢であると分かったうえで(もしくは、判断するまでもなく明らかなうえで)、劣勢な側がドローオファーするという行為は、「あなたには、正しい形勢判断をする実力がない」「あなたには、この優勢なポジションを勝ち切る実力がない」と受け取られかねないため、失礼にあたる。
特に格下のプレーヤーが格上のプレーヤーに対して、劣勢のポジションでドローオファーするということは、普通に考えてありえない行為です。雑誌に皮肉を書かれても仕方がありません(笑) こうして考えてみると、形勢に差がある場合のドローオファーは、優勢な側がなんらかの理由から(手間を省く、入賞を決める、勝ち切る自信がないなど)、行うものだと言えるでしょう。勝ちとドローしかない優勢側は、わざわざ劣勢側のオファーを受ける理由はないのです。
・今夜はどういった話題にするか少し悩んでいましたが、今まであまり語ったことのなかった、レイティング計算の話にしようと思います。これは私がチェコのトーナメント中に思いついたことでしたが、ふと昨晩思い出したので、このタイミングで記事にしてみます。あまりこの話題に興味のない人にとっては退屈な記事かもしれませんが、少しだけお付き合いください。
レイティングというプレーヤーの実力を表す数値は、試合をして勝てば上がりますし、負ければ下がります。それでは、その変動数がどのように決定されるはご存知でしょうか。レイティングの変動を簡単に説明すると、1試合をこなして、その結果から相手のレイティングとの差から定まる期待値を引き、係数をかけた数字だけ上昇します。文章だけだと少しわかりにくいので、式にします。
(試合で獲得したポイント – 期待値) × 係数
FIDE のサイトでは、レイティングの計算式が公開されており、この式と各自の係数を知ることができます。実際この式に数値を当てはめて考えてみましょう。私がレイティングの同じ相手と1試合して勝った場合、得られるポイントの期待値は0.5(勝率50%)、レイティング2400に到達したことのないプレーヤーの係数は15 であるため、
(1 – 0.5) × 15 = 7.5
こうして7.5 レイティングが上昇すると計算できます。相手側は獲得ポイントが0であるため、7.5 マイナスです。ちなみに、既定の30試合をまだこなしていないプレーヤーは係数が30、2400に一度でも到達したことのあるプレーヤーは係数が10となります。つまり、30試合をまだこなしていないプレーヤーは、同じレイティングの相手に1回勝って15、2400に到達したことのあるプレーヤーは、5上がるという計算になります。国内のレイティングはもう少し係数が細かく設定されていますが、基本的に計算式は同じはずです。
ちなみに、レイティングは100高い相手との1試合の期待値は0.36(勝率が36%)、200高い相手との1試合の期待値は0.24(勝率24%)とされており、これらは公開されていませんが、FIDE のRatings Change Calculator のページ で、適当に数値を当てはめていけば、知ることができます。
・長くなりつつあるので、そろそろまとめます。こうして時にはたった1手の判断が、1試合でのレイティング変動差を生むわけですが、それが1試合、2試合と続いていけば、どんどんと厚いものになっていくでしょう。そうした1手の判断を正確にしていくことが、実力を上げるという1つの考え方であり、結果の紙一重を自分側に引き寄せられる(引き分けではなく勝ちに、負けではなく引き分けに) プレーヤーを、実力者と呼ぶことができるのだと思います。レイティングという数字ばかりを追わないほうが結果がついてくることもありますが、レイティングはシビアに結果を反映するものですし、やはりレイティングの上昇はモチベーションの向上につながります。Brno Open のSemenova 戦のような危ういゲームを反省しながら、手の正確性を上げていくというのは、レイティングを上げていく1つの有効な手段だと考えています。
・、FIDE レイティング保持者の分布図で、2000-2050 が何%、2050-2100 が何% と、そういった統計も公開されていることです。それによれば私は現在のFIDE レイティング、2361 で、FIDE レイティング保持者の上位2.8% 辺りに位置しているようです。FIDE のHP で公開されている世界ランキングは4500位程なので、実際に計算してみても間違いはありません。4500位と言われても、強いのか弱いのかあまりピンときませんが、世界のトップ3% 以内にいると言われると、少し強そうに聞こえますね(笑)

2015年

・今日、12月締め切りの新しい国内レイティング、S104 が公開されました。ハイレベルだったジャパンオープンの結果が反映され、試合をしたプレーヤーのトップリストは、以下のようになっています。
小島慎也 2463 +6
南條遼介 2441+14
Tran Thanh Tu 2440 -55
羽生善治 2418 +3
青嶋未来 2366 -12
私は5勝1敗2ドローで+6 でした。ベストレイティングには一歩届きませんでしたが、正直上がるとは思っていなかったので、十分な結果です。ジャパンオープンで優勝した南條くんは、名古屋で落としたレイティングをそっくり取り戻し、+14 でした。もう少し上がるかとも思いましたが、2400台で20以上上げるのは、相当大変なようです。ジャパンオープンで初めて黒星を喫したTu さんはかなり落とし、適正なレイティングに落ち着きそうですね。
そして2人のプロ棋士はどうかと言えば、羽生さんが+3、青嶋くんが-12 です。ジャパンオープンで、4勝1ドロー2bye だった羽生さんは、200下の小林くんとのドローが響いたでしょうか。思ったよりも数字が上がりませんでした。去年の東京オープンで落とした分を取り戻すのには、もう少し白星が必要です。青嶋くんは快速の優勝で2400 になって以降、少しずつですがレイティングを落としています。それでも、IVL でも優勝するなど、調子が悪いわけではないと思いますので、また来年、数字を伸ばしてくるでしょう。
・JCA公式戦戦績
37勝6敗10ドロー、勝率79%
FIDE公式戦戦績
15勝6敗5ドロー、勝率67%
・今週の月曜日、イングランドの元U14 チャンピオン、大山彰人くんと久々に会ってきました。2012年のロンドン遠征で会い、IVL にもゲストとして一度参加した彼も、もう高校生になるそうです。時の流れは早いですね。彼とはブリッツやポジション研究のほか、ラピッドを1試合指してきました。そのゲームを自分のChess Baseに入力したところ、それがちょうど2000試合目でした。2005、2006年頃の試合の棋譜を紛失しているので、実際にはもっと多いのですが、これを一つの節目として記事を書こうと思います。
私が自分のデータベースに入力しているゲームは、公式戦、非公式戦に関わらず、ラピッド以上の棋譜を取った試合が基本ですが、時には面白かったオンラインのゲームや、ブリッツもあります。公式戦を全くしない月もあれば、年末年始のハンガリーのように、マスタークラスと月に30試合をこなす月もあるので、頻度はまちまちですが、15年目で2000試合というのは、結構なハイペースかもしれません。15年の間にチェスから離れていた、いわゆるブランクの期間が全く無いのも、私のチェス歴の特徴でしょう。
2000試合の中には思い出深いゲームも多く、それらを見ると当時のことを懐かしく思い出します。初めての公式戦で勝ったゲーム、先輩に勝ったゲーム、クイーンを取って勝勢だったのに、大逆転で負けて悔しい思いをしたゲーム、全日本選手権での初優勝を決めたゲーム、初めてIM, GM に勝ったゲーム、IM ノームやIM タイトルを確定させたゲームなど、挙げていけばきりがありません。その1つ1つが重なって、2000という大台に到達したことを、とても嬉しく思います。これらのゲームは、私がどうやってこの15年を生きてきたかという軌跡だと思っています。
今月のジャパンリーグでは、2001試合目から2007試合目をすることになるでしょう。2000という数字はただの通過点で、今後も試合を1つ1つこなしていくことになります。最近はコーチ業が忙しいですが、プレーヤーとしてもまだまだこれからですので、あらためて皆さん、よろしくお願い致します。
・数日遅れですが、今夜はこちらの話題です。IM になった私や南條くんを含め、1988年生まれの世代には、不思議と強豪プレーヤーが揃っています。今回、その中の1人である山田弘平くんが、6月1日より株式会社エーアイネット・テクノロジのバックアップを受け、サポンサードチェスプレーヤーになったことを発表しました。弘平くんは2008年、2009年に私や南條くんを抑えて学生チャンピオンとなり、2010年にはチームメイトとして、ロシアのハンティマンシスクオリンピアードや、広州アジア大会に一緒に参加しています。
企業がチェスプレーヤーのスポンサーにつくという話を聞くと、2006年のアジア大会に参加した際に、インド代表のGM Sasikiran がそうであったことや、マレーシアのIM Mas がマレーシア初のGM を期待されて、石油会社からのバックアップを受けていたことを思い出します。しかし、日本のようなチェス後進国にとっては、おそらく初めてのことで、弘平くんにとって大変素晴らしいことだと思います。弘平くんは今後、大会参加費や遠征費の補助を受けるようで、これからの活動の幅も広がることでしょう。弘平くん、おめでとう!
中学生の頃、北海道から遠征してきた弘平くんと知り合って、10年以上経ちました。そんな彼が、こうして現在でもチェスプレーヤーとして努力を続けていることは、私にとっても大変嬉しいことですし、今回の話題は、日本のチェス界にとっても明るいニュースでしょう。私もますます、プレーヤーとしてもトレーナーとしても、国内外での活動に精を出していこうと思います。
・本日、1月分のFIDE 公式戦の集計がすべて終わり、2月のFIDE レイティングが更新されました。日本のレイティングリストをチェックすると、私が年末年始のケチケメートでの結果を受けて2403 となり、チェスを始めて14年目にして、初めて日本ランキング1位になりました。今月頭に私がハンガリー、羽生さんがスウェーデンの試合を終えた時点でこうなることは分かっていましたが、こうして実際に更新されたレイティングとランキングを見ると、こみあげてくる思いがあります。
私が羽生さんに対して、どのような気持ちを持っていたのかを表現するのは、そんなに簡単なことではありません。「チェスでも羽生さんが日本で一番なんですよね?」と聞かれるたび、「そうなんですよね」と同意しつつ、悔しい思いがありました。「羽生さんはチェスも強いんですよね」と言われた際、自分から日本のランキングについて説明することもありました。IM のタイトルを獲得することと同様に、羽生さんへのコンプレックスや、もどかしい気持ちはこの数年、私がさらに強くなりたいと願う原動力だったと思います。
今回、羽生さんとレイティングが逆転したことは、素直に嬉しいこととして受け止めます。しかし、レイティングは強さを示す1つの指標でしかなく、それが多少上下したり、他人との順位が入れ替わったりすることに、気を取られすぎてはいけません。これは昨年のトロムソオリンピアード前に、渡辺暁さんから教わったことで、まったくもってその通りだと思います。現在の数字や順位がどうあれ、そこからさらに自身を高める努力を続けていけるかどうか、それが大切です。そして私自身について言えば、その努力の具体的な一環として、この2年ほど続けている羽生さんとのトレーニングが挙げられます。羽生さんは競う相手でもありながら、私を伸ばしてくれた恩人でもあるのです。
私と羽生さん、そして南條くんは、まだこれからも伸びていき、2400でストップするプレーヤーではないでしょう。今後も切磋琢磨しながら、互いに実力を高め合っていければと思っています。今回、私が初めてレイティング2400に到達するにあたり、試合やトレーニングでお世話になった日本のプレーヤーたち、競い合ってきた海外のマスターたち、コーチのミーシャ、そして応援してくださった皆さんに、深く感謝致します。IM タイトルの正式認定はもう少しかかるようですが、これからも見守っていただけると嬉しいです。
・FM のタイトルを獲得した2009年、レイティングは順当に2330台まで伸び、このまま順当にいけば、IM ノームの獲得や2400 到達というのは、さはど難しくないのではないかと、20歳の私は考えていました。ところがどっこい、2010年から2011年にかけては、FIDE 公式戦であまり勝つことができず、レイティングを連続で落として2200台に戻ってしまいました。当時はそれが一時的な不調によるものだと思っていましたが、そうしてレイティングをふらふらさせることも含め、まだ経験の浅いFM の腕前だったのだと、今では理解できます。当時はIM, GM との対戦経験も少なく、そうしたマスターたちがどういったものなのか、まだ分かっていなかったでしょう。
本気でIM へのチャレンジを始めるため、2264 というレイティングで、ブダペストへの長期遠征に踏み切ったのは、2012年5月のことです。周りにはレイティングを140上げ、IM ノームを3つ取るためにブダペストに来たのだと、自分で言葉にして伝えておきながら、それは果てしなく遠い目標のように思えました。それでも、2年半で250試合以上を戦い、それを現実のものにできたのは、私を支えてくれた日本のチェスファン、家族、友人、そしてミーシャのおかげだと思っています。皆さん、本当にありがとうございます。

2016年

・全日本選手権のリストはFIDE ではなく、JCA レイティングで決まっているため、全日本のリストを決める大事なレイティング増減です。日本のトップ勢は以下のようになっています。
小島慎也 2463 (-8)
Tran Than Tu 2460 (+15)
南條遼介 2430 (-11)
青嶋未来 2346 (+1)
馬場雅裕 2317 (+12)
私は百傑の3勝3ドローで、前回の更新で増加させた分と同じだけ落とし、2463 に戻してしまいました。百傑全勝優勝のTu さんに抜かれる可能性もあると思いましたが、Tu さんは+15 で、ぎりぎり逆転はしませんでしたね。南條くんのエントリーは確認できないため、全日本のリストは、私が1、Tuさんが2となりそうです。他には私の周りでは、ジュニアのプレーヤーが健闘し、レイティングを上げている印象を受けます。

2017年

・先日、モンゴルのウランバートルで行われていた、2nd Eastern Asian Youth Chess Championship が全日程を終えました。日本からは6セクションに8人のプレーヤーが参加していましたが、その中でU14 セクションに参加していた逢坂拓真くんが、5勝4ドローの7/9 という好成績で準優勝となり、一発でCandidate Master のタイトル獲得となりました! 逢坂くんは日本のジュニアでトップクラスの実力を持つプレーヤーの1人で、これまでもギリシャやスロバキアのユース大会に参加してきましたが、表彰台に上ったのは今回が初めてです。拓真、おめでとう!
・Tran Thanh Tu 2503 +12
小島慎也 2493 +7
南條遼介 2447 +3
青嶋未来 2397 -1
馬場雅裕 2363 -15
Alexander Averbukh 2338 +8
Tuさんは快速選手権での7/8 での優勝を受け、ベストレイティングを更新しました。これまで短期間来日し、一大会に出場して高い仮レイティングをつけるGM はいましたが、そういった特殊な例を除けば、国内の公式戦で2500に乗ったのは、私の知る限りTuさんが初めてです。Tuさん、おめでとうございます!
実は私も乗るかなと思っていましたが、全日本の戦績だけでは届きませんでした。また次のサマーオープンで星を重ねて大台を目指そうと思います。今年の公式戦もまだ半分が終わった程度ですので、前半の戦績が振るわなかった人は後半戦での巻き返しを図りましょう。これから本格的な夏を迎え、公式戦の多いシーズンになりますからね!
・今後、アメリカのトーナメントに参加することを検討しているプレーヤーに、参考にしていただければ幸いです。
・チェスセットと時計は持参
アメリカのトーナメントは、基本的にチェスセットと時計をプレーヤーが持参します。日本のトーナメントと違い、シートも用意されていません。用意されているのは、棋譜用紙だけです。そのため、必要な道具を忘れたプレーヤーは会場で購入するか、他のプレーヤーから借りる必要があります。私は他のマスターから借りたことも、逆に貸したこともあります。ラスベガスのNorth American Open では、上位3ボードまではチェスセットと時計の用意がありましたが、他はすべてプレーヤーの持ち込みでした。
このようなシステムに慣れているアメリカのプレーヤーは、試合道具一式をバッグに詰め、どこのトーナメントにも参加するでしょう。逆にヨーロッパやアジアのように、運営側がチェスセットから時計までを用意するのが当たり前の文化圏のプレーヤーは、かなり戸惑うと思います。ちなみに私は、ラスベガスの4R で当たったプレーヤーが、黒のピースだけが赤いチェスセットを持参しており、それで試合の準備をしていました。それは流石に勘弁してくれと、私のチェスセットに変更してもらいましたが、譲らなかった場合はどちらのチェスセットを使うか、揉めるかもしれませんね。
・タフな試合スケジュール
アメリカのトーナメントは持ち時間も長く、それで1日2試合する日も多いため、体力的にはかなりきついでしょう。1日6時間を超える試合が続く可能性もあります。夕方から始まったゲームが7時間を超え、日付が変わっても終わらないということも、かなり珍しいですがありえます。そのうえで夜の10時、11時から数時間かかるブリッツトーナメントを開催し、それに多くの参加者が集まるのも驚きです。
加えて、日本から参加する場合は大きな時差の問題があります。もちろんヨーロッパのトーナメントもありますが、ブダペストが8時間であるのに対し、ラスベガスは17時間です。この大きな時差に体調を崩すことなく、ハードなスケジュールで試合をこなさなければいけないことも、アメリカのトーナメントに参加する際の課題となるでしょう。
・遅いペアリング発表
ペアリングの発表については、私はアメリカのトーナメントには不満があります。今回、エントリーの際に登録したメールアドレスに、対戦相手の名前と色がメールで送られてくることもあり、そのこと自体は画期的だと思いました。しかし、その通知が早かったり遅かったり、タイミングはまちまちでした。HP 上での公開も遅い場合が多く、試合直前に会場前に紙で掲示されてるものを確認しなければいけませんでした。Swiss Manager とChess Results を使うヨーロッパ、アジアのトーナメントとはこの点でも大きく特色が異なり、初めてアメリカに参加したプレーヤーは戸惑うでしょう。
・独特の持ち時間
試合の持ち時間も、他とはかなり違います。North Ameican Open は40手2時間+30分+初手から1手10秒delay でした。このdelay のシステムは、時計によってはBronstein と記載されているもので、Fischerのように時間が増えるのではなく、決められた時間、持ち時間が減らないということです。つまり10秒delay であれば、指し始めた際に最初の10秒は持ち時間が2時間のままで、10秒を過ぎてから1時間59分になるということです。9秒使ってから指しても、1秒しか使わずに指しても、余った時間は加算されません。
delay はDGT の時計の裏には記載があるため、特殊すぎるものではないと思いますが、私は少なくともヨーロッパのトーナメントで見かけたことはありません。日本でもFischer システムの持ち時間か指し切りしか使わないため、初めての人はこの持ち時間の違いにも気を付ける必要があると思います。
・モンロイの利用
アメリカのトーナメントでは、モンロイを使います。モンロイとは、棋譜用紙に自分で棋譜を記録する代わりに、ディスプレーをタッチして駒を動かし、棋譜を記録する小型の機械です。モンロイで記録された棋譜は即中継されるため、観戦をしているプレーヤーにとってはありがたいでしょう。私は今回、インドのアジアジュニア以来、10年ぶりにモンロイを使いました。使い勝手も良かったので、棋譜を紙に書いたのは最初の3試合ほどで、残りは全てモンロイで記録しています。
ちなみにモンロイは使うことは義務ではありません。運営スタッフから試合前に「良かったら使ってね」と渡されます。希望すれば両者ともモンロイを使えますし、逆にどちらも使わなくてもOKです。ラウンドによっては、上位のボードの中継がなく、かなり飛んだ下位ボードの中継はあるという不思議な状況もありえます。この点も、見る人によっては自由、見る人によってはいい加減ともとれる、アメリカ独自のスタイルです。
このように書いてみると、持ち時間とモンロイを除いた上の3つに関しては、日本の大会のスタイルと似ているとも言えるかもしれません。今回は注意点や不満なことを多めに書きましたが、もちろんレベルの高さや盛り上がりなど、参加するべき価値は大いにありますので、今後も機会があればアメリカの大会にはチャレンジしてみたいと思っています。

・ブログに書いてあったおススメ本一覧

CHESS STRATEGY FOR CLUB PLAYERS
Positional Masterpieces of 2012-2015
Opening Repertoire: The Caro-Kann
Greatest 365 Puzzles
Judit Polgar The Princess of Chess
Chess Fundamentals – Lessons from Cuba –
1001 Deadly Checkmates
declining the queen’s gambit
The Sicilian Labyrinth
Chess Evolution
Improve Your Chess Tactics
John Nunn’s Chess Puzzle Book
The Modern French A Complete Guide for Black
A Rock-Solid Chess Opening Repertoire for Black
Capablanca’s Best Chess Endings
The Ragozin Complex
Concise Chess Middlegames
Grandmaster Chess Strategy
The French Defence A Complete Black Repertoire
マンガで覚える 図解チェスの基本
猫を抱いて象と泳ぐ
Grandmaster Repertoire